SDGsみらい研究会(S研)

SDGsみらい研究会(みらいS研)

SDGsをヒントに未来について考える、新潟の学生団体です。

シリーズ 知り合いのセクマイにインタビュー:第一回 Mさん

シリーズ 知り合いのセクマイにインタビュー」は、身近なセクシャルマイノリティ(略:セクマイ)の方にお話を伺う企画です。

SDGsの目標5にはジェンダー平等が掲げられています。
記事を通じて、セクマイやSDGsについて考えていければと思います。

 

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第一回はMさんにお話を伺いました。
Mさんはシリーズ最年少の15歳(中学3年生)で、身体的性は女性です。
私の印象を述べると、とても意志が強い一方、繊細な面がある人だと思います。
Mさんの言葉にはいつも考えさせられるものがあるので、今回記事にできることをうれしく思います。

 

目次:

1. ジェンダーセクシャリティについて

――ではまず、Mさんのジェンダーについて、無理のない範囲でおしえてください。

Mさん:ジェンダー*1ってセクシャリティ*2と同じでしたっけ…あやふやで申し訳ないです…

――厳密なところは僕の方があやふやだと思うから、Mさんが思ったように答えてくれれば嬉しい。言葉を尽くせば誤解は減るから、少しでも気になったら今みたいに教えて。

Mさん:体の性に対して心の性(性自認*3)と言うことでしたら女性で一致しています。
しかし、私は髪の毛が短く誤解を招いてしまうことも多々ありますね。
「男性になりたい女性」「トランスジェンダー*4の人」=髪を短くする、という訳では無いのに。

自分にこの髪型が1番似合うから、楽だから、という理由で短いだけであって、私の場合決してセクシャリティに依存していません。
そこの所だけは、髪の短い女性全体やLGBTQ+に対する"別物"だという意識が垣間見えたような気がしてしまって不快です。
(かなりこれによって苛立ってきた過去があるので感情的な物も含めてしまっていますが!!😡)

人それぞれ恋愛対象や性的指向*5は違ってくるんだけど、みんなが思っているより違うんですよ。
本当にグラデーションです。
セクシャリティで言えば、私はパンセクシャル*6レズビアン*7にあたると思います。
セクシャリティは流動的なので日々ちょっとずつ自分の求めているものに近づくし、求めているものすらも変わるしで「今はこれ!」と言っていても直ぐに変わってしまうものなので一言でジャンル分けするのは難しいですが。

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LGBTQ+の象徴、レインボーフラッグ。
その虹色は、多様なセクシャリティがあることを視覚的に伝えている。
acworksさんによる写真ACからの写真

私は、レズビアンとかバイセクシャル*8とかパンセクシャルとか用語に振り分けられるのが好きではありません。
そういった振り分けが好きな方もいらっしゃるようですが…。
パンセクシャルは、全性愛者と言われています。
文字通り、同性も異性も中性も、人間全体が恋愛対象という事です(これまた人によって違いますが)。
私は今まで女性の事しか好きになった事がありません。
なのでレズビアンなのでしょう。
しかし、女性だから恋愛対象に入って好きになったという訳ではなく、好きになった人がたまたま女性だったと言うだけなので、今後男性を好きになったり中性の方を好きになったりするかも知れません。
なので、パンセクシャルとも言っておきます。

実際、結婚してから同性も恋愛対象に入ると気付き後悔している方もいらっしゃいますし、流動的なものなのかはたまた気付いていないだけなのか、そういった所は分かりませんが別に分からなくてもいいですよね。
本質的な部分に違いはありません。

――Mさんは用語で振り分けられるのが好きではないということでしたが、今までセクシャリティの多様性について考えたことがない人からしても、用語が多くてとっつきにくいな…と感じる部分があると思います。
Mさんは、どのようにして用語を知っていきましたか。
また、それについて意見や思うことなどがあれば教えてください。

Mさん:自分がどの立場にいるのか、どういう状況なのかを判断するのに用語はとても役にたちます。
しかし、それにすがったり型にはめるのは違うと思います。
先程も言った通りセクシャリティと言うものは流動的で誰一人同じ物が無いため、型に当てはめるのは危険です。
多様性と謳っているのに型に当てはめるの、なんなんだろうと思います。
用語が多くてとっつきにくい、という事に関しては、うーんそうですね…

私は、セクシャリティの多様性について考えようとして用語を覚えたのではなく、自分で自分のセクシャリティを模索しているうちに覚えました。
セクシャリティとはなんなのか、どういった物があるのか、自分にふさわしいもの、又は興味本位で気になるものを…と調べていったら身についていた感じです。
セクシャリティの多様性について考える為に用語は必要ありません。
用語は本質ではないからです。
そして用語は誰でも理解できる簡単な言葉で言い換える事が出来ますし。
確かに用語を知っていた方が素早く情報をキャッチすることが出来ますし話の幅も広がります。
言語のように、LGBT界で普段使われている用語とその説明文ではニュアンスが違ったり、なんてこともありますし…。
用語は、基本気にしなくて良いのです。
調べていって気になったものがあればそれについて掘り進めればいいし、そうしていったら自然に覚えていく物もありますよね。
用語はあくまでも型、振り分けなので、何回も言いますが本質ではありません。
そこでハードルが高く見えとっつきにくさを感じさせてしまっているのがいけませんね…。

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用語は型にすぎず本質ではない。
言語と同じで、触れるうちに自然に覚えるもの。
Gerd AltmannによるPixabayからの画像

ゲイバーとかビアンバーもあるし、テレビに出てる「おかま」と呼ばれている人達だってLGBT関連の場合が多いでしょう。
意見を交流したり、話を聞くことは簡単に出来る。
用語を覚えなければいけない、と言うわけではないと思います。
バー系やテレビなどでしたらLGBTという壁を挟まないでも楽しめると思いますし…。

私がLGBTQ+じゃなかったらこうやって取材を受けることは無かっただろうし…
複雑な気持ち。

――用語は必ずしも本質ではなくて、その気になれば話を聞くことも簡単にできる。確かにその通りだと思います。テレビの例でもあるように、LGBTQ+だからどう、という訳ではなく、その人自身の面白さや、人としての深み自体が本質と言えるかもしれませんね。

そもそもこの取材自体が「LGBTQ+だから」という色眼鏡が入っている、という指摘に対しては、ごもっともです。ただ、まず前段階として、LGBTQ+に対する偏見を取り除いてもらうのが大切だと思って取材させていただきました。
社会的な面でも人々の意識の面でも、同じ人間として平等に扱われるべきだと思います。

Mさん:その通り、セクシャルはその人を形成する重要なアイデンティティになりますが、本質では無いのです。
そこで壁を作られるのは悲しい事…。
(話違うけどLGBTQ+の中に存在する差別もだいぶ見苦しいです。悲しい。)
ただセクシャリティに関しては、カミングアウトしなければ"平等"に扱われるというのがありますよね。
それも厄介なんです。
カミングアウトをすれば自分から離れていってしまう人もいるし、奇怪な目を向けられる可能性も高い。
そんなリスクを背負ってまでカミングアウトする必要性があるのか、とさえ思ってしまいます。
世の中にはアウティング*9というものがあり、それによって亡くなった方もいらっしゃいます。
人々は「差別はいけない」とかいう言葉で思考停止していないで、事の重大さに気付くべきなのではと思います。
同性愛者なんだ、と同性にカミングアウトした場合、「私の事好きにならないでね」と言われたという話をよく耳にします。
そういう所です。

――LGBTQ+の中で差別があるというのは、悪い意味で普通の人間らしさみたいなものを感じますね。話の本筋とはそれてしまいますが、例えばどのような差別があるのでしょう。

アウティングに関しては、一橋大学の事件*10などが記憶に新しいです。自分のアイデンティティを尊重してほしいという思いがある一方で、そのような事件を聞いてしまうとカミングアウトすら尻込みしてしまう面もありそうです。

Mさんは、「人々が『差別はいけない』という言葉で思考停止している」とおっしゃいますが、それは世間一般の人々が事件について「あれは差別主義者が起こしたことであって自分には関係ない」と他人事のようにとらえている、ということでしょうか。
そのあたりのことについて、よろしければもう少し教えてください。

Mさん:(LGBTQ+の中の差別について)ミソジニー*11や男尊女卑などが大きく関わってきている問題だと思います。
実際ゲイ*12とビアン*13は不仲だと言われています。
ゲイの方から「レズ消えろ」と言われたり、暴言を吐かれたりは国内外問わず耳にしたことがあります。
また、レズビアンと言ってしまうと女性のレッテルを貼られてしまうため言いたくない、という人もいます。
女性への偏見とミソジニーは根深いです。
バイ*14と同性愛者が不仲だったり、付き合っている方達でトラブルが起きてしまったりもよく聞きます。
やはり同性だけ好きな人と両性(全性)好きな人とでは価値観の違いやズレがあるため問題もあるのでしょう。

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男女間で価値観の違いから不仲になることがあるのと同様に、LGBTQ+の中でもすれ違いはある。
意見の不一致(夫婦喧嘩)のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20160426099post-7537.html

(「『差別はいけない』という言葉で思考停止している」という意味に関して)それもあります。
が、自分の根底に眠っている潜在的な差別(無意識にしてしまっているもの)やステレオタイプなどによる差別も知るべきだと思います。
それだけセンシティブな話題であると意識を持たなければいけませんね…。

「差別はいけない」その事実だけ知っていて思考停止していないで、しっかりと考えなければいけません。
自分がしてしまっている事の重大さに気づかなきゃいけません。
差別がどうして起こってしまうのか、どういうものなのか、…現実的ではありませんが皆がもっと考えなければ。

――なるほど。(LGBTQ+の中の差別について)ふだんセクシャルマジョリティから誤解を受けがちなセクシャルマイノリティであっても、マイノリティ内の別のセクシャリティに対する理解は難しい面があるのですね。

(「『差別はいけない』という言葉で思考停止している」という意味に関して)「差別はいけない」という段階からもう一歩進めて、「自分が差別をしているかもしれない」という問いかけが大切だということでしょうか。

Mさん:そうですね、差別について理解を深め考えなければ。

2. 自分の性に関して良かったこと・悪かったこと

――これまでに、自分のセクシュアリティに関して、良かったと思ったことと、悪かったと思ったことをそれぞれ教えてください。

Mさん:良かった所も悪かった所もありません…。
異性愛者で良かった所悪かった所なんかありますか?
強いて言えば、良かったと思ったことは素敵な女性を好きになれた事と差別問題等について考えるきっかけになった事、そしてそれがこのように他の人の役に立ったり架け橋となれた事(大袈裟)ですかね。
悪かったと思ったことは難しいですし見つかった時点でセクマイや私の負けだと思いますが、これまた強いて言うなら受け入れるのに時間がかかった事でしょうか。
"普通の人"だったら必要のない事に関して考え込み時間を要してしまいました。

あのセクシャリティがいいな〜とか、こうなりたいな〜と言うので私のセクシャリティが確立したのでは無く、もともと存在していた物に気付いたor自然とそうなった為そのセクシャリティに善し悪しはありません。
ほとんどの場合、学生のうちに好きになった同性は異性愛者でしょうから叶う確率はとても低い。
それが残念です。

――「普通の人」だったら必要のないことについて考え込んでしまった、というのは、具体的にはどういうことについて考え込んでしまったのですか。

Mさん:自分のセクシャリティに関してです。
私は受け入れるのに時間がかかりました。
社会がそういった考えを作ってしまっているのだと思いますが、違和感がありましたね。
自分のセクシャルがL*15だということに。
本当に自分のセクシャルがそうなのか、それとも思い込みなのか…。

もともと自分の肉体が嫌いなのですが更に嫌になりました。
男性だったら"普通"の恋愛が出来たのかもしれない、でも性自認は女性だし女性として女性が好き。
意味が分かりません。
ごちゃごちゃでした。
他人の心をズタズタにしておいて平凡に暮らし理想的な恋愛をしているヘテロ*16が羨ましく感じました。

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ヘテロを規範とする社会で、レズビアンとして生きることに悩んだMさん。
FineGraphicsさんによる写真ACからの写真

とあるクィア*17の方が「LGBTQ+当事者じゃないのにLGBTQ+を語るな」と言っていました。
誰であろうと語る権利はあるのでこれは間違っているように思いますが、言ってしまう気持ちはすごく分かります。
土足でLGBTコミュニティに入ってきて自らの恋愛観を押し付けてくる人も多々いますし、「LGBT素敵じゃん!」「私はいいと思うよ!」なんて言ってるヘテロも、肯定(受け入れ)してくれているつもりなのかもしれないが、差別視しているのが見え見えで不快です。
私やそのクィアの方は当事者なので、マジョリティの方よりもこの話題に敏感ですのでそのせいですかね。
自分を救えるのは自分だけなのに社会に邪魔されて救いたくない、救えない感じで当時はもどかしかったです。
相当悩みました。
マジョリティだったらそれぞれの恋愛の悩みはあれどセクシャルで迷うことはないですし、マジョリティの悩みなどだいたいはセクマイカップル間の悩みでもありますしね。

ちなみに私は保育園、小学校低学年くらいまでマジョリティだと思っていたので、無意識に男の子を見ていた(恋愛感情を求めていた)と思います。
女の子は男の子と結婚して子供を産んで…とかいう社会が作ったものに当てはめられて生活していたので…

――先ほどの「負け」という表現に関連して、このようなエピソードを聞くと、セクマイであることで不利益をこうむる現状があるならば、それはセクマイの「負け」ではなくて、社会の「負け」ではないかという気がしてきます。

Mさん:そうですね、ゲイの私やセクマイが嫌いだったらそれは社会や嫌いな人の問題で私たちに問題はありません。

3. SDGsとセクマイについて

――2030年までの達成を目指す国際目標としてSDGsというものがありますが、その目標5にジェンダー平等が定められています。しかし、宗教上の理由などから、セクシャルマイノリティについては直接的な記載が盛り込まれませんでした。
一方、SDGsの「誰ひとり取り残さない」という理念から、間接的には盛り込まれているという見方もあります。

このようなセクマイをめぐる現状について、Mさんの考えを教えてください。

Mさん:私は無宗教なので宗教的な重みは分かりませんが、国内外問わず私が見てきたセクマイの宗教信仰者たち(言い方が良くないですが)は宗教の方に悩まれている方がほとんどです。
しかし、それはセクマイを禁ずる宗教に属しているがセクマイだ、という当事者が考えるべき問題なのでは? と思います。
他人事だから放っておく、という訳ではなく、それが彼ら彼女らの最善の方法でしょう。

当事者で無ければ分からない事情の方を優先すべきです。
同性婚について騒がれている日本を見るとその重みが分かりますね。
「気持ち悪い」など自分に被害が及ばないのに否定意見を出し、人の気持ちを考えていない人に決定権を持って欲しくありません。

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他者の気持ちを尊重できる人に決定権を持ってほしいと主張するMさん。
fujiwaraさんによる写真ACからの写真

ジェンダーとセクシャルは定義上異なるため、センシティブな話題に触れることを避けようとセクマイの事は記載しなかったかのようにも取れますね。
設立者じゃないので分かりませんが。
セクマイは世界で差別されているというのが現状です。
例としてフランスを出すとパリ郊外でセクマイだとカミングアウトした方に暴力をする方が大勢いたりもするらしいですし、親にカミングアウトをしたら家を追い出されてしまった、なんて話もよく聞きます。
これが全てを物語っていますね。

子供の時点で男と女が繋がるものだ、男は男らしく女は女らしくあるべきだ、という観念がない時代が来なければ差別は絶対に無くなりません。
後に「ジェンダーが平等な世界」が来たとしても差別は残るでしょうね。
人間なので。
残念です。
性的嗜好や恋愛対象を正されるセラピーも世界に存在するし拷問。

――当事者でなければわからない事情を尊重するということに関しては、他者を尊重するという点で、セクシャルマイノリティとセクシャルマジョリティの間の問題という文脈に限った話ではない、より根源的な問題である気もしてきます。

Mさん:そうですね、人間性の問題です。

――セクマイを受け入れられるような社会になると、より人に優しい、生きやすい社会になるような気がします。
Mさんは、それに向けて一人一人が意識すべきことは何だと考えますか。

Mさん:相手の立場に立って物事を考えることだと思います。
それができている人とできていない人とでは、ジェンダー問題に限らずとてつもない差があると思います。
私は相手の立場に立って考えようということを普段から心がけています。
物事には常に二面性があるため、多方向から、色々な視点から見ています。
だからこそ、否定する人の気持ちやズレも理解でき悲しくなります。

否定している方は、もう少し冷静になり私たちの気持ちや立場も理解した上での結論を出して欲しいです。
皆がそれを意識すれば、より良い社会になるのではないかと思っています。

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エンパシーを働かせれば、社会はより良くなる。
Jackson DavidによるPixabayからの画像

*1:社会的・文化的な性

*2:人間の性

*3:自分で認識している性。
男性、女性、Xジェンダー、クエスチョニングに分けられる。

Xジェンダー性自認が男性とも女性とも言えない立場をとる人。
以下のように分類される:

エスチョニング:性自認性的指向(どんな性を好きになるか)が定まっていない

*4:性自認と身体的な性が一致していない人全般を指す

*5:性的に惹かれる相手の性別。
以下のようにに分類される:

*6:全性愛者。
全ての性別に惹かれる。

*7:性自認が女性かつ性的指向も女性

*8:両性愛者。
2つ以上の性別に惹かれる。

*9:人のセクシャリティを勝手に第三者に言いふらすこと

*10:一橋大学アウティング事件:2015年4月に、一橋大学ロースクール生が「ゲイだ」とバラされ、投身自殺した事件

*11:女性蔑視

*12:性自認が男性かつ性的指向が男性

*13:レズビアンの略

*14:両性愛者。
2つ以上の性に惹かれる。

*15:レズビアンの略語

*16:ヘテロセクシャルヘテロロマンティックの略。

ヘテロセクシャル:異性に対して性的な感情を抱くセクシャリティ

ヘテロロマンティック:異性に対して恋愛感情を抱くセクシャリティ

*17:男/女、異性愛を前提にすることに反対する人。
すべてのセクマイを包摂する概念。